他用途向けの超多収水稲品種「ふくひびき」
【研究のねらい】
良食味品種ブームによる銘柄米の作付急増にともない加工用の安価な米の確保が難しくなってきていることから、他用途化を目的として、多収化による低価格で酒造用掛米適性に優れた水稲品種を育成した。 【研究の成果】
(1)「コチヒビキ」/「奥羽316号」の組み合わせから育成し、平成5年度に水稲農林320号」として農林登録された。
(2)短稈・穂重型の品種で熟期は中生である。収量性は極めて高く、「あきたこまち」より20%程度多収である。
(3)いもち病圃場抵抗性は葉いもちがやや強、穂いもちは中である。耐倒伏性ははやや強で、耐冷性はやや弱である。
(4)外観品質は中で精米歩合は「トヨニシキ」と大差なく、蒸米の消化性としての直糖はやや高く、ホルモール窒素や粗蛋白質は低いなど酒造用掛米としての適性がある。
(5)米菓加工性も高く、炊飯米の食味は「キヨニシキ」程度で多収品種の中では良食味である。
写真 超多収をえた「ふくひびき」(福島農試会津支場 1992.9)
図 ふくひびき」の配布先における収量(1988〜92年)
【成果の利活用】
(1)東北地域中南部および北陸、東海地方に適する。
(2)福島県では会津地方を中心に極多収が期待され、酒造用掛米を中心として2,000haの普及が見込まれている。
(3)掛米のほか米菓加工用など他用途米の生産に活用できる。
【成果の発表年】
平成4年度
いもち病に強い良食味水稲品種「おきにいり」
【研究のねらい】
良食味品種はいもち病に弱いものが多く薬剤防除に頼らざるをえないため、耐冷性、多収性を加味しながら、いもち病抵抗性と良食味性を結びつけた水稲品種を育成した。 【研究の成果】
(1)中部47号」/「奥羽313号」の組合せから育成し、平成8年度に「水稲農林342号」として農林登録された。
(2)中長稈の中間型品種で、熟期は中生の晩に属する粳(うるち)種である。
(3)いもち病圃場抵抗性は葉いもちがやや強、穂いもちは強である。白葉枯病抵抗性もやや強である。耐倒伏性は強で、耐冷性も強である。収量性は高く、多肥でとくに多収である。
(4)玄米品種は「ササニシキ」並の上下、食味は「あきたこまち」並の極良(上中)である。
写真1 いもち病多発圃場のおきにいり(手前、健全)とササニシキ(奥、穂いもちが多い)
写真2 おきにいり(左)とササニシキ(右)
【成果の利活用】
(1)東北地域中南部に適する。
(2)宮城県では奨励品種に採用の予定で、倒伏やいもち病の発生しやすい地帯で5,000haの普及が見込まれる。
【成果の発表年】
平成7年度
加工米飯・加工食品向けの色素をもつ水稲品種「朝紫」
【研究のねらい】
むら興しなどで紫黒米を利用した料理、菓子、酒などがつくられているが、栽培適性の低い中国から導入した品種が用いられているため、我が国の栽培に適した日本稲型の改良品種を育成した。 【研究の成果】
(1)「F6東糯396」(「タツミモチ)/バリ島在来紫黒米//「中部糯57号」/「奥羽331号」(後の「ふくひびき」)の組み合わせから育成した紫黒糯で、平成8年度に「水稲農林糯343号」として農林登録された。熟期は早生の晩、草型は中間型の品種である。
(2)葉いもち抵抗性は強いが、穂いもちには弱く、耐冷性もやや弱い。耐倒伏性は中である。収量は一般品種と比べ20%程度低い。稲体の種々の部位が紫色を呈する。
(3)玄米の果皮は濃い紫色を呈するが完全に搗精した後水洗すると一般の糯米と同様の白さになる。7〜8分搗きにして、わずかに紫色の果皮を残すと炊飯米全体が紫色による。一般の白米に「朝紫」の玄米を少し混合しても炊飯米全体が赤飯のような赤紫色を呈する。
写真1 成熟期の朝紫
写真2 朝紫(上)とヒメノモチ(下)
【成果の利活用】
(1)東北地域中南部に適する。
(2)栽培にあたっては、一般米に混合しないように特に注意する。
(3)むら興しなどでの活用や愛好家の飯米に利用されるほか、和・洋菓子、酒、古風料理などで新たな需要開発が期待される。
【成果の発表年】
平成7年度
赤さび病に強く、粉が黄色い「小麦中間母本農6号」
【研究のねらい】
東北地域には、小麦の減収をもたらす病原性の強い赤さび病レースが優勢に分布している。「Agrus」は赤さび病抵抗性をもたカモジグサの遺伝子が取り込まれている染色体置換品種であるが、長稈、晩熟のため我が国では栽培しにくい。そのため、「Agrus」を母本にして我が国の栽培に適応した赤さび病抵抗性系統を育成した。 【研究の成果】
(1)カモジグサの赤さび病抵抗性遺伝子をもつ「Agrus」に「アオバコムギ」および「ミヤギノコムギ」を交配して2つの予備系統を育成し、さらにそれらを交配して平成3年度「小麦中間母本農6号」として農林登録された(図1、写真)。
(2)この系統は、「アオバコムギ」および「ミヤギノコムギ」の栽培特性をあわせもち、かつ、日本の主要な赤さび病菌レース(6A,37B,21B)に対して抵抗性を示す。
(3)赤さび病抵抗性遺伝子と連鎖した特性として、粉色に黄色味があり(胚乳にカロチノイドの一種ルテインを従来の栽培品種の2倍以上も含む)、黄色の麺など国産小麦の新しい用途開発への可能性をもつ(図2)。
図1 「小麦中間母本農6号」の系譜
図2 「小麦中間母本農6号」のLutein含量
写真 「小麦中間母本農6号」の穂型および粒形
【成果の利活用】
赤さび病抵抗性品種育成および粉色の黄色味を利用した新用途品種開発のための交配母本として利用できる。
【成果の発表年】
平成3年度
耐雪性・製粉性に優れた小麦品種「あきたっこ」
【研究のねらい】
東北北部日本海側の内陸部は積雪期間が長く、小麦の安定生産には耐雪性の向上が必要であった。また、秋田県では地域特産の稲庭うどんに適した高製粉性品種の育成が求められていた。そこで、耐雪性に優れた高品質で早生・多収の品種を育成した。 【研究の成果】
(1)「ワカマツコムギ」/「東北144号」の組み合せから育成し、平成4年度に「小麦農林137号」として農林登録された。
(2)耐雪性が強く、根雪期間の限度が約110日で「キタカミコムギ」の約80日より長い。 (3)成熟期が「キタカミコムギ」より2〜3日早く、やや多収である。
(4)製粉歩留が高いため、製粉性に優れる。
(5)製めん適性は「キタカミコムギ」と同程度かやや優れる。
写真1 「あきたっこ」の草姿 注)穂長、穂型、稈長とも「キタカミコムギ」と類似する。
表 「あきたっこ」の特性(育成地) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 品 種 名 耐雪性 成熟期 収量 製粉 めん 歩留 評点 (月日) (s/a) (%) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− あきたっこ 中 7.8 41.7 72.8 71.5 標)キタカミコムギ 弱 7.11 38.8 66.6 70.0 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注)耐雪性、成熟期及び収量は昭和59年〜平成3年度の平均値、製粉歩留とめん評点は昭和59年〜平成2年度の平均値。 写真2 秋田県における「あきたっこ」の栽培圃場
【成果の利活用】
(1)秋田県の内陸部多雪地帯および沿岸少雪地帯に適する。
(2)平成4年度に秋田県の奨励品種となった。
(3)秋田県では、稲庭うどんや乾麺の原料として利用されている。
【成果の発表年】
平成4年度
麦・大豆の輪作体系に適した早生大豆品種「トモユタカ」
【研究のねらい】
2年3作の輪作体系では、大豆の収穫時期と麦の播種時期が重なるため、これら作業時 期の競合しない早熟で晩播にも適し、麦の前・後作となりうる大豆品種を育成した。 【研究の成果】
(1)「東北52号」/「刈系102号」の組合せから育成し、平成2年度に「だいず農林92号」として農林登録された。
(2)宮城県の奨励品種である「タンレイ」より10日早く熟する早生品種で、麦との2年3作体系が可能である。
(3)センチュウおよびウイルス病に抵抗性の白目・中粒品種で、耐倒伏性もありコンバイン収穫が可能である。
(4)子実収量は普通畑、晩播転換畑で「ライデン」より優れた多収性である。
(5)豆腐の加工適性は「ライデン」より優れ、裂皮粒の発生も少なく高品質である。
写真1 草姿「トモユタカ」「ライデン」
写真2 子実「トモユタカ」「ライデン」
【成果の利活用】
(1)東北中部以南から北関東の転換畑の麦・大豆2年3作体系を実施している地帯に導入する。
(2)平成2年度に宮城県および山形県の奨励品種となった。
【成果の発表年】
平成元年度
白目で粒が大きく豆腐加工適性に優れた大豆品種「リュウホウ」
【研究のねらい】
実需者からは国産の豆腐用高品質大豆を、生産者からは輪作作物として省力化に適した品種の開発が期待されていることから、豆腐の加工適性に優れ、コンバイン収穫に適した大豆品種を育成した。 【研究の成果】
(1)「スズユタカ」/「刈交343F6」の組合せから育成し、平成7年度に「だいず農林100号」として農林登録された。
(2)秋田県の奨励品種である「ライデン」と同じ10月初旬に熟する早生品種で、「ライデン」に比べて大粒である。
(3)ダイズシストセンチュウに抵抗性である。
(4)倒伏には強く、また、着莢位置が高いことからコンバインの収穫ロスが少ない。
(5)豆腐の加工適性は「ライデン」並みに優れる。
写真1 草姿「ライデン」「リュウホウ」
写真2 子実「ライデン」「リュウホウ」
【成果の利活用】
(1)東北中部および北部地域に適する。
(2)平成7年度に秋田県の奨励品種となった。
(3)豆腐用だが、大粒であることから煮豆用としても利用できる。
【成果の発表年】
平成6年度
白目で粒が小さく納豆加工適性に優れた大豆品種「鈴の音」
【研究のねらい】
実需者からは国産の納豆用小粒大豆を、生産者からは輸作作物として省力化に適した品種の開発が期待されていることから、納豆の加工適性に優れ、コンバイン収穫に適した早生の大豆品種を育成した。 【研究の成果】
(1)「刈系244号」/刈系221号(後のコスズ)」の組み合わせから育成し、平成7年度に「だいず農林101号」として農林登録された。
(2)岩手県の奨励品種である「コスズ」に比べて約10日早く熟する早生の納豆用品種である。
(3)早熟種では多収である。
(4)倒伏が少ないことからコンバイン収穫に適している。
(5)粒は「コスズ」並みの極小粒で納豆加工適性は高い。
写真1 草姿「コスズ」「鈴の音」
写真2 子実「コスズ」「鈴の音」
【成果の利活用】
(1)東北中部および北部地域に適する。
(2)平成7年度に岩手県の奨励品種となった。
【成果の発表年】
平成6年度
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