TWilight INSanity 台詞集
JavaScriptを有効にしていないと見られないと思います。
ネタバレ注意。
#誤字脱字など気になったところには下線が引いてあります。マウスカーソルを乗せると注釈が出ます。
共通OPテロップ 羽板兄妹 西條姉妹 ホシミ姉妹 エンディング
羽板兄妹
慎也は、Illnetへの接続装置から飛び上がるように
起きると、自分の身体が、無傷であることを確かめ
た。
どうやら無事にDrive-OUTできたようだ。
妹の様子が気になり、すぐに携帯端末からメールを
送る。急いでいるから、用件だけだ。
「大丈夫か?」
すぐに返信が来た。
「もちろん大丈夫だよ。ところで報酬のこと忘れて
ないよね?」
慎也は、妹のたくましさに呆れながらも、無事に現
実世界に戻れたことの喜びを噛み締めた。
それから二週間が経過し、事件は原因不明のまま処
理されることとなった。時が過ぎるとともに、人々
の関心も事件から離れていった。
さくらと慎也の二人にとっては、直接関わった非常
に大きな事件ではあったが、それでもやはり、次第
に忘れていった。
彼らもまた、今まで通りの生活を繰り返し、やがて
日常に飲み込まれていく。
慎也の同僚
おい、慎也。少し休憩しないか?
慎也
あ、ああ。そうだな。
慎也の同僚
そういえば、最近、お前の妹、来ないな。
慎也
なんだ、お前、さくらに顔を出して欲しいのか?
慎也の同僚
い、いや、べつにそういう訳じゃ…
慎也
そういえば、さくらは、自分より頭のいい人がいい
って言ってたぜ。
慎也の同僚
そ、そうなのか……
慎也も、今まで通りにAHCの研究にいそしんだ。
わずかではあるが研究の成果は上がっており、いつ
かは、誰もが賞賛する素晴らしいAHが、開発される
ことになるだろう。
地味な毎日の積み重ねが、きっと未来を紡ぐと、今
の慎也は信じている。
Fin
慎也は、Illnetへの接続装置から飛び上がるように
起きると、自分の身体が、無傷であることを確かめ
た。
どうやら無事にDrive-OUTできたようだ、とほっと
する。
だが、さくらの安否が気になる。
慎也は、急いでさくらの携帯端末に呼び出しをかけ
た。
……誰も、その呼び出しに出ることはなかった。
───数ヶ月が経過した。
さくらは、あれから一度も目を覚ましていない。
あの時、慎也は沙羅のことを理解することができな
かった。
もしも、理解できていたなら、結果は変わっていた
だろうか。
あのAHは特別だった。
彼女ほど激しく嘆き悲しみ、人間に対して敵意をむ
き出しにしたAHは、今の世界には存在していない。
今回の暴走は、それらの感情が引き起こしたもの
だが、慎也には彼女のことが理解できなかった。
さくらは、どう思っていたのだろう。
さくらは、慎也よりも沙羅を理解できていたように
思える。
もしも、沙羅の放った弾幕の向こう側へと、さらに
踏み込むことができたなら
沙羅の心を理解できていただろうか。
違う未来へ続く道があったのだろうか。
さくらは答えずに、ただ、静かに眠っていた。
Fin
Drive-OUTすると、ちょうど日の出の時間だった。
研究所の窓から、朝の日の光が差し込んでいる。
手元の携帯を覗くと、さくらからの着信が鳴り続い
ていた。
着信を受けると、さくらのほっとした声が響いてく
る。
慎也は、沙羅を破壊したことを、静かに告げた。
さくらは、ただひとこと、仕方ないよね、と言葉を
漏らした。
「なあ、さくら。オレは、お前がユキの時のことを
そんなに気にしていたなんて、知らなかった。
でも、どうしてもお前の能力が必要なんだ。
AHと人間の間に争いが起きない世界を創るために、
お前の力が……。
だから、AHCの開発を手伝ってくれ。頼む」
慎也
今回発表するのは、新しいAHCの設計理論です。
この理論は、従来は抑制していた負の感情を、肯定
することから始まります。
正と負の感情の両方を実現することで、「理性」を
形成するという理論です。
具体的なグラフや数値を使って説明いたします。
この値は、従来の…………
羽板さくら・羽板慎也の連名で発表されたその研究
論文は、大反響を呼んだ。
この理論を基にすれば、いずれは、あのときの沙羅
の完成版が出来上がるはずである。
この日を境にして、その双子の研究者の名前は、世
界に知れ渡ることとなった。
だが、彼らが本当に伝えたかった相手は、この世界
の誰でもない。
論文の謝辞を見ると、そこには「YUKI」と「SARA」
の名が書かれている。
Fin
ゆっくりと目を開けると、朝の白い日の光が飛び込
んできた。さくらは、自分の身体を触り、無傷であ
ることを確かめた。
Drive-OUTは成功したようだ。
兄の安否が気になり、あわてて携帯端末を見る。
と、同時にメールが着信した。
「大丈夫か?」
たった一言だけのメールだったが、さくらは、ほっ
と胸をなでおろす。
ぶっきらぼうだが優しい兄の気遣いが嬉しかった。
だから、すぐにメールを返信した。
「もちろん大丈夫だよ。ところで報酬のこと忘れて
ないよね?」
このメールに対する兄からの返信はなかった。
……前言撤回。兄は優しくない。
それから二週間が経過し、事件は原因不明のまま処
理されることとなった。時が過ぎるとともに、人々
の関心も事件から離れていった。
さくらと慎也の二人にとっては、直接関わった非常
に大きな事件ではあったが、それでもやはり、次第
に忘れていった。
彼らもまた、今まで通りの生活を繰り返し、やがて
日常に飲み込まれていく。
さくら
この場所は、気持ちがいいねー。
ほらー、「ハヤテ」もわたしの頭の上にばかりいな
いで、走って来なよー。
慎也
「ハヤテ」ってそいつの名前か?
さくら
うん。かわいいでしょ。
慎也
そ……そうだな……
AHCは、慎也たちの研究によって少しずつ進化して
いる。やがては、誰もが賞賛する、素晴らしいAHが
開発されるだろう。
人間とAHが、もっと理解しあげる時代の到来を夢見
ながら、さくらは今日も電子ペットと戯れていた。
Fin
Illnetへの接続装置から飛び上がるように起きると
さくらは自分の身体を触って、無傷であることを確
かめた。
Drive-OUTは成功したようだ。
兄の安否が気になり、あわてて兄の携帯端末に呼び
出しをかけた。
……返事は、返ってこなかった。
───数ヶ月が経過した。
慎也は、あれから一度も目を覚ましていない。
ムースは、どのくらいの重さですか?
あの時、さくらは沙羅の行動に気がつけなかった。
もし、自爆に気が付いていたら、結果は変わってい
ただろうか。兄を守ることができただろうか。
さくらは、慎也の代わりに、AHC研究所で研究員に
なっていた。
あの事件はAHが引き起こしたものだ。自分が出来る
罪滅ぼしは、あんな悲しい事件を二度と起こさせな
いこと。
そして、兄が出来なかったことをやり遂げること。
双子の兄は、今も静かに眠り続けている。
慎也は、夢の向こう側に何を見ているのだろうか。
惨劇など起こらない、AHと人間の幸せな世界を夢見
ているのかもしれない…
Fin
Drive-OUTすると、ちょうど日の出の時間だった。
カーテンの隙間から差し込む、眩しい光に目を細め
る。
手元の携帯端末を覗くと、慎也からの着信が鳴り続
けていた。
着信を取ると、慎也の安堵したような声が聞こえて
くる。
お互いの安否を確認した後、さくらは意を決して告
げた。
「沙羅ちゃんのイメージを持ってきたの。私が改良
して、この世界にまた生まれ変わらせてあげたい。
だから───」
それから数年。
プリマベーラというブランド名の、新しいAHが開発
された。既存のものよりも、格段に豊かな表情と、
確かな理性を持ったAHCが使われている。
設計主任の名前は、羽板さくら。
さくら
さて、あなたのお披露目だよ。
??
うー、緊張するよー。
さくら
大丈夫、私が付いてるからね。
??
ねー、そばにいてよー。緊張して、なに言うかわか
らないよー。
さくら
はいはい。そろそろ行くよ、沙羅。
沙羅
うん、ママ。
あの日、沙羅が起こした事件は、世間に大きな傷を
残した。
しかし、暖かな春の日差しに包まれながら、さくら
は思う。
あの日、沙羅と自分が出会ったのは運命であり、あ
の時、自分が選んだ道は正しかったのだと。
そして、さくらは確信している。
人間とAHの新しい時代は、今日、この日から始まる
のだと。
Fin
結局、二人がIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。
Drive-OUTプロセスが起動されたことは間違いなか
ったが、失敗したのだ。
今となっては、彼らが弾幕の向こう側に何を見たの
かを知る者は、誰もいない。
Fin
結局、さくらがIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。
Drive-OUTプロセスが起動されたことは間違いなか
ったが、失敗したのだ。
今となっては、さくらが弾幕の向こう側に何を見た
のかを知る者は、誰もいない。
さくらは何を見たのか。どんな真実が待っていたの
か。
真実にたどり着くために不足していたものは、何だ
ったのか。
目覚めないさくらの横で、慎也は自身に問い続けて
いた。
Fin
結局、慎也がIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。
Drive-OUTプロセスが起動されたことは間違いなか
ったが、失敗したのだ。
今となっては、慎也が弾幕の向こう側に何を見たの
かを知る者は、誰もいない。
慎也は何を見たのか。沙羅と何を話したのか。
そこにはどんな真実が待っていたのか。
さくらは、目覚めない慎也の手を握り、問い続けて
いた。
Fin
西條姉妹
Drive-OUTの文字が消えていく。
ゆっくりと目を開けると。静かな冬の朝日が部屋を
満たしていた。
隣にいた双子の妹も、ちょうどIllnetから帰ってき
たところだった。
結局、如月沙羅に会うことは出来なかった。
先生の遺言を果たすことは出来なかったのだ。
事件は、公式には原因不明のシステム障害と報道さ
れ、一ヶ月もすれば、人々の頭の中から忘れ去られ
てしまうのだろう。
しかし、二人にとっては、初めて沙羅の尻尾を掴ん
だとも言える事件だ。
忘れようにも、忘れられるはずがない。
先生が作った、最高のAHC。
そして、そのAHCを持ったAHを壊してくれという、
遺言。
先生は、最高のプログラマだった。間違いなく天才
だった。
先生が見ていた世界は、十年以上は先の未来だった
だろう。
あの人に、自分は追いつくことができるだろうか。
自分は、未だに先生が残したAHにすら翻弄されてい
る。
必ず、あのAHを見つけ出して、先生の遺言どおりに
破壊しなければならない。
そうなって初めて、先生に追いつき追い越す道への
スタートラインに立てる。
西條悠莉は、そう信じていた。
『遙かなる時の彼方に』
Fin
現実の身体の感覚が戻ると同時に、悠莉は飛び起き
た。
すぐに隣にいるはずの妹に視線を向けた。
だが───
───それから一ヶ月が過ぎた。
真悠は目を覚まさなかった。Illnetから帰ってこな
かった。
あの時、悠莉は沙羅の自爆に気がつけなかった。
振り返ってみれば、真悠はいつも自分のフォローを
してくれていた。
自分は、目の前のことに熱くなって、自我を忘れて
しまうタイプだ。
真悠は、そんな自分を目の前にして、いつも冷静に
対処してくれていた。
これまでのハッキングも、決して自分だけでは成し
遂げることはできなかっただろう。
自分は、先生の遺言のことばかりを気にしていて、
真悠のことを全く見ていなかったように思える。
そのことに、もっと早く気づいていれば。
少しでも、自分の背中を守ってくれている存在に気
がついていれば。
その先には、違う物語が、きっと。
Fin
目を開くと、自分と同じ顔の少女が見つめていた。
「おつかれさま、姉さん」
「ああ、おつかれ」
清廉とした冬の朝日が、窓から差し込んでいた。
長い夜だった。
先生との約束を果たすのに10年かかった。
だが、沙羅を破壊するのは、先生の本意ではなかっ
ただろう。
本来なら、沙羅の設計を直して、完璧なAHを作りた
かったはずだ。
悠莉
なあ、真悠。AHCの知識ってどれくらい持ってる?
真悠
そう言うと思って、資料を集めておいたよ。
悠莉
あははは、考えることは同じか。
真悠
そうだね。
悠莉
じゃあ、早速取りかかるか。目標は、先生が作ろう
としていた感情豊かなAHCだ。
真悠
ううん、違うよ、姉さん。
悠莉
何が違うんだ?
真悠
私たちが作るのは、先生の作ったものを超えるAHC
だよ。
悠莉
…………なかなか言うようになったな、真悠。
真悠
きっと作れるよ、だって私たちには───
悠莉
たどり着けない場所はない!
生物2は、どのように大きかった
───それから4年が過ぎた。
Illnetで、最近、話題の3人がいた。
セキュリティのコンサル会社を起こし、企業のセキ
ュリティチェックを行うという双子とAHの3人組
である。
彼女たちのセキュリティの指摘は、迅速・的確で誰
もが舌を巻いた。
そのサポート役となるAHは、とてもAHとは思えない
豊かな表情と性能を兼ね備えていた。
その開発者の一人である西條悠莉は、こんなことを
話した。
悠莉
このAHCは、プラスの感情の回路とマイナスの感情
の回路を分けて搭載し、
お互いがバランスを取り合っています。
それはあたかも私たち双子のようなものです。
私は、少し熱くなりすぎる傾向で、妹の真悠は、ど
ちらかというと冷静なタイプです。
私と真悠、私たちは2人で1つなんです。
そうして私たちはバランスをとっているのです。
熱く語る姉の傍らで、
真悠は、静かに微笑んでいた。
Fin
Drive-OUTの文字が消えていく。
ゆっくりと目を開けると。静かな冬の朝日が部屋を
満たしていた。
隣にいた双子の姉も、ちょうどIllnetから帰ってき
たところだった。
結局、如月沙羅に会うことは出来なかった。
先生の遺言を果たすことは出来なかったのだ。
事件は、公式には原因不明のシステム障害と報道さ
れ、一ヶ月もすれば、人々の頭の中から忘れ去られ
てしまうのだろう。
しかし、二人にとっては、初めて沙羅の尻尾を掴ん
だとも言える事件だ。
忘れようにも、忘れられるはずがない。
先生が作った、最高のAHC。
そして、そのAHCを持ったAHを壊してくれという、
遺言。
先生は、最高のプログラマだったが、人間的には、
少しずれた人だった。
彼女の目には、おそらく常人には見えない未来が映
っていたのだろう。
自分の姉の悠莉も、先生と同じような目をすること
がある。
それは、選ばれた人間だけが持つ、独特の目。
姉は、いつも熱くなって無茶をする。
先生の作ったAHに翻弄されているという事実も、そ
れを助長しているだろう。
それが取り返しの付かないことにならない、とは言
い切れない。
先生の遺言は必ず果たしたい。それは姉と同じ想い
だ。
だが、その過程で二人のどちらかが欠けてしまう、
といった事態だけは避けなければならない。
特に、姉が先生と同じ道を歩んでしまうことは防ぎ
たい。
姉と先生の違いは、自分の存在。
姉には双子の妹がいる。
真悠は、自分がここに在ることの意味を、あらため
て心に刻み込んだ。
Fin
現実の身体の感覚が戻ると同時に、真悠は飛び起き
た。
真っ先に気になるのは、姉の安否。
隣のIllnet接続装置に目を向けた。
だが───
───それから一ヶ月が過ぎた。
悠莉は目を覚まさなかった。Illnetから帰ってこな
かった。
あの時、真悠は沙羅の自爆に気がつけなかった。
自分は何のために、いつも姉のそばにいたのだろう
か。
姉をフォローするためだったはずだ。
だが、実際には自分が姉に助けられることになって
しまった。
しかも、最悪の形で。
それ以来、一度もIllnetにはログインしていない。
一人でログインすることに耐えられなかった。
いつも自分のそばには姉がいた。
強気に微笑む姉が、自分の心の支えだった。
あの微笑を、取り戻したい。
姉の病室の窓の外には、あの夜と同じ満月が輝いて
いた。
Fin
深い眠りから覚めた後のように、ゆっくりと双瞼を
開く。
視界に入ってくるのは、自分の部屋。隣には、眼を
閉じた双子の姉。
それは見慣れた光景、安心する風景。
真悠は姉のそばに寄り添い、顔を覗き込んだ。
自分の影が姉を覆うと同時に、姉も目を開く。
「おつかれさま、姉さん」
「ああ、おつかれ」
長い夜が明けた。
二人とも無事に帰ってくることができた。
先生との約束も果たすことができた。
真悠は満足していた。
だが、真悠は分かっていた。
悠莉が満足していないことを。
言わなくても分かる。
ずっと二人で生きてきたのだから。
悠莉
なあ、真悠。AHCの知識ってどれくらい持ってる?
真悠
そう言うと思って、資料を集めておいたよ。
悠莉
あははは、考えることは同じか。
真悠
そうだね。
悠莉
じゃあ、早速取りかかるか。目標は、先生が作ろう
としていた感情豊かなAHCだ。
真悠
ううん、違うよ、姉さん。
悠莉
何が違うんだ?
真悠
私たちが作るのは、先生の作ったものを超えるAHC
だよ。
悠莉
…………なかなか言うようになったな、真悠。
真悠
きっと作れるよ、だって私たちには───
たどり着けない場所はない!
───それから4年が過ぎた。
ニュース速報
ニュース速報をお伝えします。
先ほど、本年度の最優秀プログラマ賞が発表され、
日本人としては始めて、西條悠莉・真悠の姉妹が選
ばれました。
西條姉妹は、AHCについての研究論文が高く評価さ
れ、またIllnetの発展にも大きく貢献したことが受
賞につながりました。
授賞式は、明日、東京で行われ…………
二人は、この日、師匠を超えた。
二人のコンビネーションが生んだ結果と言っていい
だろう。
二人の名は、今、最高のハッカーとしてでなく、
神月光紗と同じ、「世界最高のプログラマ」として
名を連ねている。
Fin
深い眠りから覚めた後のように、ゆっくりと双瞼を
開く。
視界に入ってくるのは、自分の部屋。隣には、眼を
閉じた双子の姉。
それは見慣れた光景、安心する風景。
真悠は姉のそばに寄り添い、顔を覗き込んだ。
自分の影が姉を覆うと同時に、姉も目を開く。
「おつかれさま、姉さん」
「ああ、おつかれ」
長い夜が明けた。
先生と約束したものとは、少し違ったものになった
が自分達に託された責務は果たした。
悠莉は、持ち帰った沙羅のプログラムイメージを眺
める。
先生が最期に残した、小さな命の核。
世界を翻弄することさえできる力。
きっと、その中には人間とAHの未来を紡ぐ糸もある
に違いない。
悠莉と真悠は、誓った。
必ず、神月先生の残してくれた小さな芽を、大きな
木に育てあげることを。
こうして、二人の新しい日々が始まった。
───そうして4年が過ぎた。
ニュース速報
ニュース速報をお伝えします。
計算機科学の最高権威ともされるA.M.T.賞が
日本人としては始めて、西條悠莉・真悠の姉妹に贈
られることとなりました。
西條姉妹は、感情表現の豊かなAHCの作成と、Illne
tのセキュリティの向上に多大な貢献を行ったこと
が高く評価されました。
授賞式は、明日、東京で行われ…………
二人は、今、世界最高のプログラマとして、名を連
ねることになった。
だが、二人は受賞に際して一つの条件をつけた。
ラジオ波は電子レンジを実行しない
それは、彼女ら二人のほかに一人を加えて、三人の
連名とすること。
三人目の名前は、神月 光紗。
西條姉妹が師から受け継いだのは、卓越した技術、
そして───
幸せな未来への道標。
『受け継がれた心』
Fin
結局、二人がIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。
Drive-OUTプロセスが起動されたことは間違いなか
ったが、失敗したのだ。
双子のハッカーが、GenesisCity乗っ取り事件に巻
き込まれたらしい
との噂が、Illnetと現実世界を駆け巡った。
当初は、二人は事件の容疑者として挙げられていた
のだが、
最終的にはバニシングゴースト現象に遭遇したと確
認され、被害者に名を連ねることとなった。
今となっては、彼女らが弾幕の向こう側に何を見た
のかを知る者は、誰もいない。
Fin
結局、真悠がIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。Drive-OUTプロセスが起動されたことは
間違いなかったが、失敗したのだ。
あの時、真悠を一人で行かせたのは、やはり間違い
だったのだろうか。
悠莉は、悔やんでも悔やみきれなかった。
自分が一緒に行っていれば、きっと違う結果になっ
ていたはずだ。
真悠は、あの弾幕の向こう側になにを見たのだろう
か。
悠莉は、静かに眠り続ける妹の顔を眺めながら、も
う一度、あの場所に行くことを決意していた。
Fin
結局、悠莉がIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。Drive-OUTプロセスが起動されたことは
間違いなかったが、失敗したのだ。
あの時、悠莉を一人で行かせてしまったのは、やは
り間違いだったのだろうか。
真悠は、悔やんでも悔やみきれなかった。
私たち双子は、いつも一緒にいるべきだったのだ。
悠莉は、あの弾幕の向こう側になにを見たのだろう
か。
真悠は、姉がまだIllnetにいると信じている。
きっと、先生のように精神体になって生きているに
違いない。
真悠は、姉を探すために、もう一度あの場所へ向か
う準備を始めた。
Fin
ホシミ姉妹
Drive-OUTは、日の出の時間とほぼ同時だった。
ツバサが目を開くと、周りにいた施設の研究員たち
が、心配そうに見守っていたのがわかった。
ツバサたちが無事に戻ってきたことに対して、
ツバサの頭を撫でて喜びを隠さない者、
安堵の表情を見せただけで自室に戻っていく者、
手を付けられずに冷めてしまったコーヒーを口に運
ぶ者、各自がそれぞれの方法で彼女たちの帰還を歓
迎した。
結局、マスターとやらの正体は分からなかった。
事件は、公式には原因不明のシステム障害として報
告されることとなり、
そして、一ヶ月も経過すると、事件のことは人々の
心から忘れ去られてしまった。
マイハは、これまで通りに、ツバサの中で生きてい
た。
なぜマイハが存在し続けられるのかについては未だ
に不明であったが、ツバサは、このままで良かった
と思っている。
マイハはこの世でただ一人の肉親だ。
身体を共有することくらいは、何の不自由にもなら
ない。
Illnetに行けば、お互いに顔を合わせておしゃべり
することだってできる。
不自由なのは、むしろこの施設での生活のほうだ。
研究員
じゃあ、次の課題、制限時間は5分以内。
ツバサ
はい。
マイハ
(ツバサちゃん、半分ずつね。)
ツバサ
(お姉ちゃん、それじゃズルだよ。)
マイハ
(もう、ツバサちゃんは、真面目なんだから。)
研究員
………マイハの力は借りないようにね。
ツバサ
…………はい。
マイハ
(……………………)
双子が一緒にいることに、いったい何の不都合があ
るのか。
ツバサは、今日もマイハと共に、ナノマシン実験体
として課題をこなしていた。
Fin
Drive-OUTの後、現実の身体の感覚が戻ってくる。
開いた瞳に最初に映ったのは、見慣れた研究所の天
井だった。
消えかかっていたマイハのことが気になる。
いつもなら自分の心の中にいるはずの姉に話しかけ
た。
だが、返事は、届かなかった。
あれから一ヶ月が過ぎた。
マイハは一度も返事をしてくれない。
Illnetに入っても、マイハの姿は現れなかった。
そして、順調であったナノマシン実験が、
あの日を境に、ことごとく失敗するようになった。
さらに数ヶ月が経った。
ツバサは、桜が満開となった研究施設の庭に立って
いた。
姉は、本当は4年前に死んでいたはずだった。
だが、あの日、危機に陥る自分を助けるために、
4年もの間、そばにいてくれたのだ。
それは、偶然が産んだ、とても素敵な奇跡。
だから、ただ悲しむのではなく、感謝することにし
よう。
これからの自分をもっと大切にしよう。
ツバサは、一度目を閉じると、姉の笑顔を思い出し
た。
いつでも明るく優しいマイハの笑顔。
……きっと一生忘れることはないだろう。
ツバサは、研究施設に戻るために歩き出した。
誰もいなくなった庭では、桜の花びらが静かに降り
続けていた。
まるで、舞う羽のように。
Fin
Drive-OUTの後、現実の身体の感覚が戻ってくる。
開いた瞳に最初に映ったのは、見慣れた研究所の天
井だった。
起き上がるとすぐに、自分の心の中にいるはずの姉
に話しかけた。
だが、返事は、届かなかった。
あれから一ヶ月が過ぎた。
マイハは一度も返事をしてくれない。
Illnetに入っても、マイハの姿は現れなかった。
ツバサは、自らの身体を検体としたナノマシン実験
に忙殺されることで
孤独をやり過ごそうとした。
その悲壮感を見るに見かねた研究員は、ツバサに一
日の休暇を与えた。
ツバサは、その日は朝からIllnetに入っていた。
あの日以来初めて、GenesisCityの中枢を訪れる。
多数の死者を生んだ事件後だからか、
最近では、この辺りに幽霊が出没するなどという噂
も流れていた。
ふと、急に、背後に誰かの視線を感じた。
だが、手元の携帯端末には、誰の反応も表示されて
いない。
本当に幽霊か、と一瞬考えたが、すぐにそのバカバ
カしい思考を否定する。
しかし、それでもやはり、視線の元へと振り返らず
にはいられなかった。
「あ、見つかっちゃった!」
自分と同じ顔、声、そして身体。
言葉にしなくても分かる、心が教えてくれる、
絆が教えてくれる。
目の前の相手が、自分の双子の姉だと。
「あれ? 見えてないのかな? ゴースト化してか
ら、うまく身体の再現ができないんだよね」
ツバサの目から涙があふれる。
ツバサ
お姉ちゃん……よかった……また会えた……。
マイハ
うん、お姉ちゃんだぞっ。
なぜ、マイハがここにいるのかは分からない。
だが、確かにそこに、ホシミ マイハが存在したの
だ。
ツバサは、マイハを抱きしめた。
もう二度と、離れ離れにならないように。
『Eternal Melody』
Fin
Drive-OUTは、日の出の時間とほぼ同時だった。
ツバサが目を開くと、周りにいた施設の研究員たち
が、心配そうに見守っていたのがわかった。
ツバサたちが無事に戻ってきたことに対して、
ツバサの頭を撫でて喜びを隠さない者、
安堵の表情を見せただけで自室に戻っていく者、
手を付けられずに冷めてしまったコーヒーを口に運
ぶ者、各自がそれぞれの方法で彼女たちの帰還を歓
迎した。
結局、マスターとやらの正体は分からなかった。
事件は、公式には原因不明のシステム障害として報
告されることとなり、
そして、一ヶ月も経過すると、事件のことは人々の
心から忘れ去られてしまった。
ある日のこと、ツバサとマイハの会話が、通常のコ
ンピュータネットワーク上でも観測できるようにな
った。
今までは、Illnet内でなければ会話ができなかった
マイハだったが、これからは現実世界でも他人と会
話することができる。
ツバサ
お姉ちゃん。
マイハ
やっほー。ツバサちゃん。
あ、真鍋さーん。こんにちは。
真鍋
あいよ。
芝
はー、この子が精神体の子ですかー。
マイハ
あ、はい。こんにちは。ええと……
芝
あ、すいません。わたし、新人の芝と言います。は
じめまして。
マイハ
はい。こちらこそ、はじめまして。
ツバサ
………
ツバサは、少し寂しく感じたりもしたが、喜ぶべき
ことだと考えた。
マイハは生きているのだ。
そして、それを他の人が認めてくれる。
マイハを認めてくれることは、自分を認めてもらう
ことに相違ない。
二人で一人であること。
それこそが双子の絆だとツバサは思った。
Fin
Drive-OUTを終えて目を開くと、施設の研究員たち
が自分を見つめていた。
奇妙な違和感。ありえない状況。
しかし、自分以外の誰も、この異常事態に気が付い
ていない。
一人の若い女性の研究員が、言った。
「無事に帰ってくることができて良かったね、
ツバサちゃん。」
わたしは、こう答えるしかなかった。
「わたし、マイハです……」
あれから一ヶ月が過ぎた。
この現実世界にある身体を動かしているのは、マイ
ハだった。
Illnetに入っても、ツバサの姿は現れない。
簡単に結論付けるなら、ツバサが消え、マイハが残
ったということだろう。
同じ遺伝子から作られた身体だ。
動かすことに何の違和感も無い。だが、自分はこの
現実世界にいるべき存在ではない、という思いが常
に頭の中にあった。
本来なら4年前に死んでいるはずだった自分が生き
残り、まだ生きていたはずの妹が消えてしまった。
あの時、ツバサだけが沙羅の自爆に気づいた。
自分は気づくことができなかった。
それがこんな結果を招いたのだろう。
マイハの後悔は、積もっていくことはあれど、消え
ることはなかった。
ある日、マイハが失踪した。
ありえないことだが、肉体を残して、精神だけが追
跡不能な形で失踪してしまったのだ。
研究所を中心にして、マイハの捜索が行われた。
いくつかの目撃談はあったものの、決して当人を捕
捉することはできなかった。
さらに数年後。
Illnetでは、こんな都市伝説がまことしやかに囁か
れていた。
Illnetには、事故で犠牲になった双子の少女の幽霊
が住んでいる、と。
『Vanishing Ghost』
Fin
Drive-OUTしていった妹が、さっきまでいた地点を
見つめる。
もう、そこには、誰もいない。
GenesisCityが崩れていく。
きっと、この日のために、自分は生き長らえたのだ
ろう。
二人でなければ、沙羅に打ち勝つことはできなかっ
た。
この時のために、自分は4年間、ツバサのそばにい
られたのだ。
だとすれば、ここが、わたしの最期の場所だ。
達成感と、ある種の高揚と共に、マイハは世界と同
化していった───。
不思議な気分だった。
どうやら、まだIllnetの中のようだが、自分が実体
化できていない。
ふわふわと浮いて、意識もぼんやりとしている。
なんとなくだが、自分はIllnetに完全に取り込まれ
たようだ。
これがバニシングゴーストの状態なのだろうか。
日にちが経つにつれ、マイハは、自分の扱いにも慣
れていった。
完全な形ではないが、少し実体化が出来るようにな
った。
そのせいか、どうやら自分の存在は、Illnetの住人
には幽霊みたいなものに見られているようだ。
とすると、精神体をゴーストと呼ぶのも、案外的を
外したものではないらしい。
数ヶ月もすると、自由に移動もできるようになり、
ほとんど何の不都合も感じなくなった。
だが、相変わらず実体化は不安定で、他人からは、
幽霊のように扱われた。
そんなある日………
見覚えのある、懐かしい姿を見かけた。
あの背丈、容姿。間違いなく自分の双子の妹だ。
嬉しさのあまり声をかけそうになったが、今の自分
の姿を彼女に見せてもよいものだろうか。
ゴースト化した姉になど会って妹は喜ぶだろうか。
躊躇して、その場を立ち去ろうとした。
だが、ちょうどその瞬間に双子の妹は振り向き、そ
して、はっきりと自分の姿を見つめた。
「あ、見つかっちゃった!」
なるべき明るく言ってみた。
だが、ツバサは何も答えない。
「あれ? 見えてないのかな? ゴースト化してか
ら、うまく身体の再現ができないんだよね」
ツバサの目から涙があふれる。
ツバサ
お姉ちゃん……よかった……また会えた……。
マイハ
うん、お姉ちゃんだぞっ。
過去に、二度、別れを覚悟した。
だが、二人の絆は、今も、しっかりとつながってい
る。
マイハは、ツバサを抱きしめた。
この絆が、いつまでも続くことを願って。
『Feather in dream』
Fin
結局、二人がIllnetからDrive-OUTしてくることは
なかった。Drive-OUTプロセスが起動されたことは
間違いなかったが、失敗したのだ。
ナノマシン実験体の喪失は、研究所にとって大きな
痛手だった。
二人に足りなかったものは、何だったのか。
それを補えたなら、あの弾幕の向こう側にあるもの
を見ることができただろうか。
研究所の真上の空で輝く満月は、ただ静かに星の海
を漂っていた。
Fin
0 件のコメント:
コメントを投稿